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周波数解析を用いたマンドリンオーケストラによる他楽器音再現
【背景と目的】
近年、学生のマンドリン合奏においては、少子化による演奏人口減少に伴い、パーカッションや管楽器を含む大編成での演奏が困難となっている。そこで、作曲家・黛敏郎先生が「涅槃交響曲」において取り入れた「カンパノロジー・エフェクト」の手法を応用し、マンドリンオーケストラの楽器音の組み合わせによって疑似的に他楽器の音を再現する手法を検討する。
【方法】
1. サンプル収集・データベース構築
まず、マンドリンオーケストラの構成楽器(マンドリン、マンドラ、マンドロンチェロ、ギター、コントラバス)の音の周波数解析を行い、振幅スペクトルのサンプルを得る。これは各楽器、全弦の全フレットにおいてサンプリングしておくことが望ましい。コントラバスについてはarcoとpizzicatoを区別して収集すべきである。さらに撥弦位置やピック・弓の材質に依っても音質が変わるので、あらゆる組み合わせを網羅してデータベースを構築しておく必要がある。
2. 再現行列の導出
次に、所望の楽器音についても同様に周波数解析を行い、振幅スペクトルを得る。そして、その振幅スペクトルを先のマンドリンオーケストラ楽器音の足し合わせで表現できるような組み合わせを、計算機に探索させる。結果として、その所望の音を再現するのに必要なマンドリンオーケストラ楽器の種類と音高、重み(音量)が出力される。このパラメータ組を再現行列と呼ぶ。再現行列Rは
という感じ。重みベクトルp=t(p1 p2 ... p6)は大きさ1に正規化される。
3. 楽譜化と演奏
続いて、再現行列に基づいて楽譜を生成する。所望の楽器音再現は、必要な各パートをdivisiして一部分(再現モジュールと呼ぶ)が担当する。最後に、合奏練習で音量・音質バランスを調節する。
【問題点】
マンドリンオーケストラのどのパートを使用してもカヴァーできない周波数帯域が少なからず存在すると考えられ、この帯域を含む楽器音は再現できない。また逆に、ある帯域Aを含みある帯域Bを含まないというような周波数分布を再現したいとき、そのような組み合わせが存在しないということも在り得る。すなわち、合奏という実装方法に拠る以上は、音の加算はできても減算はできないため、帯域遮断操作が不可能なのである。
さらに再現行列の楽譜化において、各楽器の重み―すなわち楽器間の音量バランスに関する定量的な情報は、アバウトで主観的な”音量記号”に置き換わってしまうため、再現精度が低下する。そのため、合奏の際に音量バランスを調節する主観的操作が必要となる。
また、根本的な問題として、再現モジュールの人数が小さいと、打楽器など平均音圧の高い楽器を再現しても、所望の迫力が得られない。人口減少の昨今にあって、十分な人数を再現モジュールに割り当てることは難しい。
【雑言】
マンドリンオーケストラで他楽器の音を再現したいという要求はわりと一般的なものであると信じている。私は2年前の定演でフルオケの曲をマンドリン合奏用に編曲したが、その楽器数の差に悩まされ、特に打楽器が無いことが大きな問題となった。そこでギターパートにパーム、ネイルアタック、バルトークピッチカートなどの特殊奏法を導入し、申し訳程度に打楽器音を補った。
この慣れない技法にギターパートメンバの多くは戸惑っていたが、その反面なかなか好評でもあった(と信じたい)。定演終了後に i 尾さんから「この曲が一番おもろかったわ~グッジョブや」などと言われて感無量の達成感を得、私の努力は報われた。おっとただの自慢話になってしまった。
【今後の展望】
誰か実現してくれ。
2009/06/23 (Tue.) Trackback() Comment(0) マンドリン
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